「雪のタイミングがズレている」— 森から考える、水とスキー場の未来

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東京大学・蔵治光一郎 先生 講演レポ

“温暖化で暑い”は知ってる。でも蔵治先生の話で一番ドキッとしたのは、「雪が降るタイミングがズレている」という事実。12月は増えて、1月以降は減る。スキー場にとってはまさに死活問題だし、地域の水循環にも直結する——そう腑に落ちました。

まず事実確認:この3年の北海道は「次元が違う暑さ」

  • 札幌管区気象台の統計では、直近3年(2023・2024・2025夏)が80年近い記録で1位・2位・3位の高温に相当。
  • 背景には
    1. 偏西風の北偏
    2. チベット高気圧と太平洋高気圧の重なり
    3. 周辺海域の海面水温の異常高温が“たまたま重なった”ことも。温暖化という長期の変化に、今年は短期の変動が加わってしまった。

ルスツ近郊(喜茂別・倶知安)の傾向:量は同じでも、降り方と融け方が違う

  • 年降水量短時間強雨の頻度は、長期トレンドとしては顕著な増減なし(倶知安の80年統計)。
  • しかし降雪と積雪の“季節内の配分”が変化
    • 12月:降る雪が増える傾向
    • 1月〜2月:気温上昇が強く、雪が減る傾向
    • 積雪深1月上旬は増えやすいが、春先(4月)にかけて急減
  • つまり、“降る量”よりタイミング融ける速さが変わった。2月の昇温が特に顕著で、約50年で+4℃程度の上昇という解析も。
    → スキー運営はもちろん、春の融雪出水や地下水涵養のリズムにも影響する。

法と理念:なぜ「健全な水循環」を地域で作るのか

  • 蔵治先生は、水循環基本法のフォローアップ委員長としても登壇。
  • 同法は、**水を“縦割りでなく一体的に”**扱う理念法。
    • 自然本来の「水循環」に、人の営みを重ねたとき、“恵み”と“リスク”をバランスさせた状態こそ**「健全な水循環」**。
  • 森林はその要となる。雨滴遮断・表面流抑制・土壌貯留・浸透など、多層の保水メカニズムで流れをゆるめ、ため、しみ込ませる役割を担う。

世界と日本の実践:キーワードは「流れを遅らせる」

  • 取り組みの基本はこの4つ:
    ①表面流を遅らせる/②貯留する/③浸透させる/④到達前に蒸発・遮断する
  • イギリスで広がるリーキーダム(粗透過堰)は、丸太等で“水をわざともらし続ける”構造。
  • 日本でも、治山ダムに透過機能を持たせる改良などが前進中。ローテク+市民参加でも実装できるのが強み。

ここルスツでできること:森・スキー・インフラを“水”でつなぐ

  • リゾートの集水域(赤枠で囲われるエリア)には、国有林を含む広い森林帯とスキー施設が同居。
  • 現地には、コンクリート三面張りではない調整池や、伐採材が自然に流れを抑える“擬似リーキーダム”の状態も確認できる。
  • これら既存ストックを賢く活用
    • 流下を遅らせる小規模構造の連鎖
    • 貯留→浸透の導線づくり
    • データで効果検証(気象・流量・地下水位の見える化)
      行政・事業者・研究者・地域で進める構想。
      → 「森のマネジメント=水のマネジメント」を、足元の素材と知恵で始められる。

まとめ:雪を守ることは、水を守ること

  • 12月は増える、1月以降は減る——この雪のズレは、スキーの問題にとどまらず、春の水の姿をも変える。
  • 解決のカギは、森で“流れを遅らせて・ためて・しみ込ませる”デザインと、効果を測るデータ運用
  • 法の理念(健全な水循環)を地域で具体化する実践として、ルスツは十分にポテンシャルがある。

最後に
「雪が来る時期」「融ける速さ」「森の手当て」。点だった話が、一本のストーリーに繋がりました。“スキー場だからこそできる水循環”を、ここから形にしていく——そんな前向きな空気を、会場でしっかり感じました。

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