「最初のボタンをかけ違えない」

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加森社長が語る、ルスツ発・持続可能なリゾート開発の新体制

今回のシンポジウムで特に印象的だったのは、加森観光株式会社 代表取締役社長・加森久丈氏の登壇でした。
観光と地域の未来を語るその言葉は、リゾート事業者の視点を超えて、地域社会全体にとっての指針のように感じられました。

観光は「外部要因に最も弱い産業」

「観光業は政治・経済、健康危機、そして季節や天候に最も影響を受けやすい産業です」。
加森氏はそう指摘し、閑散期対策やマーケット開拓だけでは限界があると語りました。
コロナ禍で直面した“お手上げ”の状況が、その弱点を浮き彫りにしました。

だからこそ同氏は20年前から、「季節や景気に左右されにくい、実利を生む来訪理由を持つべきだ」と考えてきたといいます。
その答えが、ルスツを「目的達成型リゾート」
に進化させることでした。

「最後の大きな土地」が持つポテンシャル

北海道最大級のオールシーズンリゾート、圧倒的な集客力、そして広大な土地資産。
「意思決定を自社一社で完結できるのも強みです」と加森氏は語ります。
これらのアセットを最大限に活かし、ルスツを“ビジネスハブ”に変える構想が動き出しました。

企業連合を束ねる「ルスツリゾートテック(RRT)」

その中核を担うのが、新体制「ルスツリゾートテック(RRT)」です。
RRTは開発管理から企業誘致ルール、ライセンス、ESG/SDGsまでを包括的に統括します。

加森氏はそのイメージを「生命の樹」にたとえました。
「幹は加森観光の主業。枝葉は多分野の事業。枝葉が増えるほど収益や知見が幹に還元され、地域経済という生態系が育つ」。

解決すべき「日本のスキーリゾートの課題」

加森氏は、日本のリゾートが抱える課題を挙げました。

  • 地価高騰による住民の定住困難
  • 外部資本による収益流出
  • 無秩序な開発による森林伐採や地下水枯渇

その解決策が、収益を地域に還元する観光モデルローカルルールと認証制度、そして地価や水資源を守る仕組みです。

地下水を守るために「雪をためる」

「地下水は数十年〜数百年をかけて涵養される資源です。使う量が涵養を超えれば、枯渇は必然です」。
そう警鐘を鳴らした上で、ルスツ独自の資源に言及しました。

ルスツでは年間10万トンを超える除雪雪が発生します。
「この雪をダムに貯めて農業・工業用水に使えば、地下水への負担を減らせます」。
雪資源の活用は、持続可能な水循環の新たな解決策になり得るのです。

外資との関係は「歓迎+ルール」

外資を排除する意図はありません。むしろ積極的に受け入れます。
ただし、「利益だけでなく地域環境の整備にも責任を果たしてもらう」。
シンガポールの事例を引きながら、地域価値向上へのコミットをローカルルールで担保する必要性を強調しました。

「5K」が示す新しい経営の軸

従来の4K(環境・観光・健康・教育)に「経済」を加え、5Kを経営の柱とします。
「環境・観光・健康・教育・経済を同時に実装してこそ、真の持続可能性が実現する」と加森氏は力を込めました。


「最初のボタンをかけ違えない。共創と共生で、楽しさと未来を両立させるリゾートへ」。

加森氏の言葉には、単なる観光開発を超えた“地域の未来をどう築くか”という強い意思が込められていました。
リゾートの持つ魅力と責任を、地元と共にどう育てていくか――その真摯な姿勢に深く共感しました。

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